カンタータ《Bereitet die Wege, bereitet die Bahn(道を備え、道を整えよ)》BWV 132(待降節第4主日用)は、作曲者自筆総譜に年記のある数少ない作品の一つです。総譜の題名と作曲者名の下に1715年と記されており、この作品は同年の待降節第4主日(1715年12月22日)にヴァイマルの城館礼拝堂で初演されたはずです。

日付の裏づけはテクストにも見られます。すなわち、このカンタータの歌詞は、ヴァイマル宮廷説教者ザローモン・フランク(1659–1725)が1715/16年の教会年度のために編んだカンタータ台本集Evangelisches Andachts-Opffer … in geistlichen CANTATEN welche auf die ordentliche Sonn- und Fest-Tage in der F. S. ges. Hof-Capelle zu Wilhelmsburg A. 1715 zu musicieren angedeutet von Salomon Franckenから採られています。フランクの台本はヨハネによる福音書1章19–28節(洗礼者ヨハネの証し)に緊密に従い、結語で「すべての者が自らの罪を自覚し、キリストを自由に公に告白すべきである」と促します。
この作品については自筆総譜が現存し、加えて未完のヴィオローネ声部の断簡がベルリン州立図書館に伝わっています。ただし上演実践に関わる重要点には、なお未解決の部分が残ります。低音には通奏数字が付されておらず、ファゴット声部は第1曲に関して、総譜中の書き込みから再構成できるにとどまります。チェロ声部も推測によるほかありません

とりわけ第3曲(バス・アリア)では、バッハの総譜に詳しい記載はないのですが、通奏低音の楽譜はしばしば2声に分けて書かれています。16分音符を奏するパートの楽器は何か、それについては各出版社(校訂者)の意見は分かれています。ベーレンライター版の新全集ではチェロがそれを担い、カールス版では BWV 147/7 Aria(テノール)を参考にし、オルガンでの演奏を採用しています。弊団の演奏においては、実際に現場で音を出した上で、最良の楽器選択をしたいと思っています。

バッハの総譜は第5曲(第2のアリア)で終わっています。もっとも、ヴァイマル版の印刷台本では、このあとエリーザベト・クルチーガーの賛美歌《Herr Christ, der einig Gottes Sohn》の第5節が続きます。しかしバッハの総譜は一葉を完全に書き終える体裁で終わっており、終曲コラールは別紙を加えて記す必要があったはずです。その別紙は後に失われたと推測されます。

現存する唯一のオリジナル・パート(ヴィオローネ)も未完で、このパートは第3曲の43小節で途切れており、続きは別紙に書かれていたものの、やはり散逸したのでしょう。

したがって、このカンタータを上演可能とするために、アルフレート・デュルの提案に従い、テクストが同一のカンタータBWV 164《Ihr, die ihr euch von Christo nennet》の終曲を用いて補いました。必要なのは変ロ長調からイ長調への移調のみです。
オーボエ声部は、バッハの総譜では移調記譜(イ長調ではなくハ長調)になっています。ヴァイマルでは礼拝音楽は基本的にコーアトーン(A ≒ 465Hz)で行われました。当時のフレンチタイプの木管楽器はカンマートーン(A ≒ 415Hz)よりも約半音低いピッチ(A ≒ 392Hz)であり、その楽器を用いることで、弦楽器と短3度ある音程差を解消したと思われます。
弊団の演奏でも、上述の通りにコーアトーン(A ≒ 465Hz) での演奏を念頭に置き、準備を始めましたが、最終的に A=440Hz にて演奏することを選択しました。主な理由は次のとおりです。パート譜が残っていないため、実際に演奏された際のピッチについては推測の域を脱しません。スコアではコーアトーンを想定して書かれていますが、パート譜を作成する段階でオーボエのパートは変ロ長調に移調(音域的には問題ない)され、A=415Hz のオーボエを用いて演奏(全体がA=440Hzのピッチとなる)された可能性もあると考えています。このような仮説に踏み込むのは、声楽ソロの記譜が異常に高いためです。特に一曲目のソプラノのアリアについては、コーアトーンで歌うにはかなり無理があると思っています。当時いわゆるハイ・コロラトゥーラ・ソプラノが在籍し、その歌手を前提に書かれた可能性はあります。しかし、仮にそうであるならば、我々が再演する際には必ずしもコーアトーンを採用する必要はないと思っています。むしろ、その選択をすることによって演奏へのアドバンテージは減ってしまうでしょう。こうした検討を踏まえ、今回のソリスト陣との綿密な打ち合わせを経て、A=440Hz での上演が最も高いパフォーマンスを発揮できると判断しました。

ライプツィヒでは、待降節第4主日はTempus Clausum テンプス・クラウズム(待降節第1主日から降誕祭までの、華美な音楽を控える期間)に含まれ、大規模な礼拝音楽は行われませんでした。判明しているかぎり、バッハはこのカンタータを、ヴァイマル期の待降節カンタータBWV 70a・186a・147aに見られるような別の典礼文脈への改作は行っていません。




























